もしも僕らが、、、
―ガチャリ、
もう夜だというのに電気すらついていない家の鍵をあけて中に入る。
三年ぶりの両親の喧嘩だろうか。
かなり仲のいい両親が喧嘩するとは思えないが、考えられる理由とすればそれしかなかった。
…リビングにつき、電気をつける。
明るくなったリビングは昨日となんら変わりはなく、いつも家族で過ごしていた普通のリビングだった。
なら何故、両親はいないのだろうか。
父さんは仕事が長引いて時々帰って来ない事があったが、母さんは専業主婦であるため、いない事は滅多になかった。
というより、今までにあったかどうかのほうが疑問だ。
明らかに不自然だった。
何故2人ともいないのだろうか。
これだけではまだ中学一年生のあたしはこの事が何を意味するかわからなかったが、テーブルの上に置いてあったメモを見て瞬時に理解した。
『サヨナラ』
カタカナで書かれたそれを見て涙が溢れそうになった。
メモの裏には続けて
『これから1人で頑張って下さい』
と書いてあった。
あの昨日までの幸せだった日々はどこへ消えたんだろう。
サヨナラだなんて、どうしてこうなったんだろう。
ポロポロとこぼれおちた涙は、じわじわとあたしのスカートをぬらしていった。
スカートをぎゅっと握り、その目に見えない痛みに絶えてみるも、すぐにまた、じわじわとスカートに染みが出来ていく。
リビングで1人、目の前の絶望にひざまつき、泣いているあたしを、あたしの中の何かが笑った。
それは今日体験したばかりの恐怖と瓜二つで、あたし自身が震え出す。
あたしの中の奥の奥に入りこんだそれは、あたしを嘲笑った。
無様だと、哀れだと、
枯れ果てたあたしの涙はもう出てこなかった。
もう一度メモを見て自嘲した。
あたしは捨てられたんだと瞬時に理解してしまったあたしを。
きっとどこかでわかっていたんだ、両親の裏切りを。
きっとあたしは裏切られる事を理解していたんだ。
理解していたはずなのに、こんなにも辛いのはそれと同時に両親を信じていたから。
それからだ。あたしが一部の友人達以外と距離をとるようになったのは。
それからだ。あたしの中にもう1つの人格、もう1人のあたしがいる事に気付いたのは。