私の小さな物語
「高梨」
汗をぬぐいながら空を仰いでいる彼を遠くに見つけ、あたしは手を振った。
「もういいの?」
「うん、ありがとう。行こ」
あたしたちは手をつなぐこともなく、何か話すこともなく、ただ黙って雨の中を歩いた。
心の中はこんなにも晴ればれとしてるのに雨は降りやまない。
だからどうしても欝な気分になってしまう。
『だけど謝らないよ。奏にそう言われたから』
『今までありがとう。奏』
柊君の言葉が、なぜか頭から離れなくて、
その後もあたしはずっと上の空だった。