空に掛かるアーチ
プルルル…と発信音が携帯電話の向こうから聴こえる。さて、もし彼女が出たらどう対応しようかとぼくは考える。
相手はまだ見知らずの少女で、前に此処で住んでいた住人でもある彼女がぼくにどのような用事があるのだろうか。
「此処でなくした物があるから探してほしい」とか「この家を大切にしてね」など、ぼくは色々考えた。
しかし彼女は一向に電話に出らず、もう10回ぐらい発信音が向こうから聴こえた。やはりいたずらだったのだろうか。
そう思って電話を切ろうとした時、急に発信音が途絶えた。彼女が電話に出たのだろうかと思い、耳を携帯電話に傾けた。しかし、向こうからは声が聞こえない。
「えーと、あの…もしもし」
仕方ないので自分から声を掛けてみた。すると、向こうからの反応があった。
「あ…あの、新しい住人さんですか?」
透き通った声が聞こえた。これが彼女の声なのか、綺麗で心地良い感じだとぼくは思った。
「うん、はじめまして。
あの手紙書いたの君だよね?」
「は、はい、そうです」
よく聞くと彼女の声は硬かった。緊張でもしているのだろうか。
「何か用事かな?
母さん呼んだ方がいい?」
「い、いえ!呼ばなくていいです。
用事があるのはあなただけですから…」
ぼくに用事とは一体何だろうか、やはり、此処で大切な物でもなくしたのかなと思った。探すくらいなら何とかなる。
「わかった。
それで、ぼくに何の用事かな?」
すると、彼女は躊躇しながらもごもごと小さな声で何かをしゃべった。ぼくにはその声が聞き取りにくくて、よくわからなかった。
「ごめん、よく聞こえなかった。
もう一度言ってもらえるかな?」
「えっと、だから…その、
新しい住人さんは
引っ越して来たばかりだから、
この町にはまだ友達とか
いないですよね……」
「うん、そうだけど」
彼女言いたい事がよくわからなかった。そして、今知り合ったばかりの少女が、ぼくの予想を遥かに上回る有り得ない事を躊躇して言った。
「だから、その、
私が新しい住人さんの友達に
なってあげようかなぁなんて…」
そう言って彼女は照れていた。