『さよなら』は言わないよ。

「琴。俺、遊びだって言われても琴の事が、まだ……好きだ。」

その言葉に顔を上げて彼方を見た。

涙はポロポロと流れる。

「今の琴も酷くなんか無いよ。最低だ、なんて言ってごめん。」

「……彼方。」

嬉しかった。

心に空いた穴が塞がったような気がした。

「彼方。あのね私も彼方が好きなの。」

「えっ!じゃあ、遊びだって言ったのは。」

「嘘だよ。あの丘で言ったのは全部、嘘。」

「何で、嘘なんか…。」

「だって私が死んだ後、彼方が幸せな人生を送れないんじゃないかって、だから……。」

その瞬間に体を抱き締められた。

彼方の匂いだ。

彼方の懐かしかった温もり。

嬉しかった。

嘘だよって言えたのが

彼方が帰ってきてくれたのが

凄く凄く、嬉しかった。

早く死にたいって、思ったけど、今は、まだ死にたくないって思ってる。
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