流華の楔




「……!」



地を踏む音に振り返れば、こちらを見下ろす影が一つ。


暗闇でよく見えないが、敵ではないと思った。



「土方」



苗字を呼び捨て。

鬼の副長をそんなふうに呼べるのは、ごくわずかしかいない。



「松平様!?」


和早を腕に抱いたまま頭を低く下げる。

そもそもなぜ容保が一人でこのような場所にいるのか。


そのわけは腕の中の女にある。




直感的に、そう思った。



案の定、気を失った和早を見て容保の様子が変わる。




「和早がいる気がして来てみたのだが……やはりか」



容保は和早に近寄り、傷がついていない方の頬を撫でた。



「…頑張りすぎだ、和早」




兄妹……いや、それ以上のものを感じた。


彼女を心配して揺れる双眸が愛情に溢れていて。




入り込めない何かがあった。



「………」



隙がなくて。

自分の出る幕がどこにもなくて。




目の前の男に、嫉妬した。



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