流華の楔
和早が土方の前で膝を折る。
固唾を飲んで見守る佐上と表情一つ動かさない土方の前で、頭を下げた。
「土方さん…お願いします。数ヶ月、暇をください」
新選組に入隊したが最後、余程の理由がない限り離脱できないのは百も承知。
和早にとっては、これが「余程」だったのだ。
「お願いします」
「………」
重い空気。
呼吸すら、忘れるような。
「はあ…」
わざとらしい溜め息が、沈黙を破った。
和早と佐上が「はっ」と土方を仰ぎ見る。
「さっさと行け。どの道お前が行かなきゃならねぇんだろ」
「……実家のことについて、聞かないんですか?」
都合よい言い訳を考えていたのだけれど。
ひょっとすると無駄になったかもしれない。
「聞かねえ」
「……」
何となくほっとした。
これで、土方を騙さずに済むと。
「ただし」
「…はい?」
何を言うのだろう。
二度と帰ってくるな、とか言われるのだろうか。
そう思っていたのに――
「戻って来なかったら、首にするからな」
土方の言葉は、酷く優しく、そして彼らしかった――…
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