流華の楔





父の訃報を聞いたその日に京を発ち、早馬を走らせた和早は、三日程で長州に着いた。



二人の前には、五層の天守閣を持つ萩城がそびえる。



慶長九年(1604)、毛利氏が指月山麓に萩城を築いて以来、萩の城下町は長州藩の中心地として栄えていた。





「懐かしいな…」




眩しい日差しを手で遮りながら、天守閣を見上げた。


幕吏である自分がここに住んでいた時もあったとは、なかなか酔狂な人生である。






「新崎様、さっそくですが…」



遠慮がちな佐上の声に、和早は「ああ」と微笑む。





「父が亡くなり、兄が不在の今…藩政は私が執らねばな」





.
< 165 / 439 >

この作品をシェア

pagetop