流華の楔
萩城、城内。
正装して回廊を進む和早に、家臣の視線が次々と突き刺さる。
どうしようもなく、いらついた。
「………」
彼女が城を追い出された事実を知る者は、哀れみの目を。
単純に“嫡子が城に戻られた”と喜ぶ者は期待の眼差しを向けた。
ただ、この中に和早が幕吏であることを知っている者はいない。
それが、救いだった。
「佐上」
前を向いたまま、斜め後方を歩く佐上の名を呼ぶ。
「…は」
それもまた“家臣”の返事。
この城内で唯一己の正体を知る佐上でさえも、瞳に映したくない。
「私はしばらく父の部屋にいる。何かあったらすぐに呼べ」
「はっ」
佐上は足を止め、一礼して去っていく。
その瞬間…
また、独りになった――…