流華の楔
「ちなみに…その縁談相手は誰なのですか?」
声を落とし、諦めたように目を伏せる。
縁談とはいえ、お互い納得できなければ話は進むまい。
適当な理由をつけて回避するくらいの事はできるだろう。
だが。
その考えは、浅はかだった。
「佐上正太郎」
「…なっ、」
聞き間違いではあるまい。
今確かに、幼馴染みの名が呼ばれた。
「(嘘でしょう…)」
多分、状況は最悪だ。
適当な理由をつけて逃げやすい、見ず知らずの大名旗本ならまだいい。
しかし頭の良い兄のこと。
『佐上正太郎』が、自分をつなぎ止める為の人質だと考えているに違いない。
“断れば、佐上を殺す”
そう言われれば、さすがの和早も従わざるをえない。