流華の楔
もくもくと進む藤堂をついていくしかなかった和早だったが、何もないはずの場所に微かな気配を感じ取った。
「(この気配…、まずい…)」
人の気配に気づいた時にはすでに遅く――殺気を含んだ笑顔の沖田総司に、さりげなく行く手を阻まれた。
「おや……平助君。手なんか握っちゃって、なんのつもりですか」
藤堂と和早の姿に初めて気づいたとでもいうような口ぶり。
おそらく、最初から見ていたのだろうに。
「あの人がまた酒を飲んで帰ってきてさ。新崎が絡まれる前に場所を変えようと思ってよ」
「ああ、そうでしたか」
沖田は心底つまらなそうにそう相槌を打つ。
しかし芹沢という男、酒癖が相当悪いらしい。
先程の一場面を見ただけでも明らかだったが、何より彼らを恐怖の眼差しで見ていた市中の人々が印象的で。
「(あの様で浪士組の長とは…)」
これは一悶着ありそうだと、心の中で呟いた。