流華の楔
「まあ、今のは余談でね。本当は和早の事で話があったんだ」
有真は和早に向き直り咳ばらいをした。
というか、十万石削減の話が余談とはどういう了見だ。
まさか…
「そろそろ、君と佐上の縁談を進めようと思ってる」
「……やはりきましたか」
そろそろだろうとは思っていた。
何も音沙汰がないなんてありえない。
幕府が動き出した今、和早をいやがおうでも“ここ”に留まらせる理由が必要なのだ。
「断わることは?」
一応聞いてみる。
多分無意味だろうけれど。
「できないだろうね。断われば、佐上が死ぬんだから」
「…く、」
唇を噛む。
そこで気付く、己の内に眠る本当の意志。
斎藤の前で、もう京には戻らないと決めたのに。
いざ目の前に突き付けられると、こうも苦しい。
「(駄目だなあ……ほんと)」
ほとほと呆れる。
唯一残された道を、拒みたいと。
そう思ってしまう自分に。
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