流華の楔
次の日。
和早は最小限の荷物と馬を従え、斎藤と約束したあの店に出向いた。
「ああ、その方はまだ経たれておりませんよ」
着くなり、店主は愛想笑いを浮かべてそう言った。
「…では、まだ宿に残っているのか?」
「はい。一緒にお泊りになった方々は早朝に帰られましたが…。あの、お知り合いで?」
「あ、ああ……少しな」
としか言えなかった。
幕府の密使だと知った上で部屋を提供していたのだとしたら、大々的に言うのは憚られる。
「では、お会いになりますか?」
「……ああ」
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