流華の楔
京都守護職邸。
松平容保が住まうそこに、和早はいた。
容保に付き人はなく、いつものように二人のみがその空間に座っている。
「して、浪士組の様子はどうだ?何か不審なところはないか?」
「…近藤以下、試衛館一派は特に問題はなく、人間性も気質も今のところ容保様の見立て通りですね」
和早は数日間見てきた結果を報知した。
近藤一派は申し分ない。
問題は、芹沢率いる水戸派だ。
さて。
どう報告したらよいのやら――…
「…ではその他、芹沢という筆頭はどうなのだ」
和早は少し考え、意を決し口を開く。
「彼は…長の座に納まる素質はありますが、目に余る行動が多いですね。主に酒。私が町に下りた際も、彼の者が酒に酔い大手を振って歩いているのを見かけました」
商人を脅して金を取ったりもしているというが、さすがに確認しないと報告できかねる。
それを除いても、もはや救いようがないなと内心ため息を漏らす。
「…なるほどな。まあ良い。それについては後々考えればよかろう」
容保の声は酷く落ち着いていた。
何か考えがあるのか、ゆっくりと目を閉じて沈黙する。
そして、和早の顔を見据え次の瞬間こう言った。
「あの者たちに、『新選組』の名を与えようと思う」