流華の楔
「……和早?」
半ば心ここに在らずの状態だったせいか、上司が心配そうにこちらを見ていた。
「あ、すみません容保様……考え事をしていました」
「……そうか。お前にしては珍しいな」
会津藩主、松平容保。
京都守護職を務める、他者からの信頼が厚い男だ。
「して和早、今は暇か?」
「はい。渡された分の仕事は終わりましたので」
「……なに?」
容保は目を見開いた。
驚きと、尊敬の眼差しが和早に注がれる。
「あの量を、一人でか?」
「はい」
政の知識においては人に勝ると自負している。
たかだか数百の書類をまとめるのに、それ程時間はかからない。
「ははは、そうか。さすが神童と呼ばれただけはあるな。私には勿体ないくらいだ」