流華の楔
伊東は不意に、盃を置いた。
「やはり、新選組は賑やかで良い」
「騒がしいだけですよ」
苦笑を漏らす近藤。
今のところ、双方上手く会話を振っている。
核心に触れず、触れさせない当たり、さすが一団体の長同士。
和早は伊東に酒を勧めるだけ。
他にする事もない。
「さて、約束の軍資金は頂きましたし、これにて失礼しますよ」
それを期に、土方が和早に「行け」と合図を送る。
「お支えします」
「ああ、ありがとう」
足元ふらつく伊東を支えながら、襖を開ける和早。
「道中お気をつけくだされ、伊東先生」
「………」
己の運命を悟ってか。
はたまた、決別の意味なのか。
伊東は退室する最後まで、近藤の声に答えることはなかった。