流華の楔
伊東は何を思ってか玄関で足をとめた。
そして、ぽつりと。
「新崎さん」
「…知ってらっしゃったんですか」
「薄々、ね。ちなみに…」
これから殺されることも知ってますよ。
と、笑いながら言った。
本当は酔ってないんじゃないかと思うくらい、軽快に。
「なら、何故」
「…信じてみようと思ったんです、新選組を。皆に危険だと言われましたけどね」
「ほんと、あなた馬鹿ですか」
腕を離すが、伊東は微動だにしない。
やはり酔った振りだったか。
「刺客は本光寺付近であなたを待ち伏せています。生きたいなら、そこを避けて帰れば良い」
「…え?」
「それとも、護衛が必要ですか」
「い、いえ、滅相もない! ご忠告ありがとう、新崎さん」
はにかむように笑顔を浮かべる伊東。
つられて和早も薄く笑う。
「あなたみたいな方に出会えたのは、ある種の奇跡かもしれません」
伊東はそう言い残して、京の夜道へと消えた。