流華の楔
土方は明らかに苛立っていた。
それは紛れもなく己のせい。
「どういう事だ」
「…申し訳ありません」
和早は半ば切腹を覚悟した。
暗殺対象を逃がした罪は重い。
二度と陽の目を見れないだろうと思ったのだが。
「伊東は素面だったばかりか得物で抵抗してきやがって挙げ句の果てに怪我人が出た」
「…?」
話が違う。
伊東は、あの道を通ったのか。
何故。
「けどまぁ、今回お前はよくやってくれた。あの演技はなかなかだったぜ」
「…伊東さんは、亡くなったんですか?」
「ああ。抜かりはねぇ」
「(ったく、あの人は…!)」
天性の馬鹿だ。
己を逃がせばそれを手引きした者が殺されるとでも思ったのか。
敵の心配などしている場合じゃなかっただろうに。