流華の楔
◇第二幕
僕とあなたと。
数日後。
いつもより眩しい日差しを受け、和早は起床した。
ということは。
必然的に、日が高く昇っているということで。
「……この私が、寝過ごした?」
庭番時代だったら命に関わる、常に完璧を求められてきた自分にあるまじき失態だ。
「あーあ…」
なんだかむしょうに笑えてきた。
自分は気付かないうちにいろいろと変わってきていたのだと。
「寝坊って、いつの時代の失敗ですか……ねえ、沖田さん?」
「あれ? ばれてましたか…さすが和早さん。寝起きでも神経は行き届いてるんですね」
整った顔立ちに似合わずどこか棘ある言葉だったが、和早は静かに笑んで沖田に向き直る。
「ええ、まあ」
さして気配も消していないようだったし、襖の奥に息を潜められていれば嫌でも気づく。
「残念。隙あらば襲おうかと思ってたんですけどね…」
「………」
真顔でそれを言う人を初めて見た。
いや、別の意味であることは重々理解できているが、言い方というものがあるだろう。
「あ、もちろん斬るという意味でね」
「ふふ……知ってますよ。でなきゃ刀片手にここまで来たりしませんからね」
斬る、斬らないのやり取りにしては、二人の間には緊張感というものが欠けていた。