流華の楔
その頃、和早はというと。
「……あの、進めないんですが」
参戦する直前、足止めを食らっていた。
和早の手首を握るその人物は、じっとこちらを見つめて動かない。
「あんたは行くな」
「何故」
「それは……ここでは言わない方がいい」
他聞をはばかるように辺りへ視線を巡らす男。
もとい斎藤。
彼の趣旨は、おそらく。
「故郷のことですか」
「…ああ。辛いだろう?」
戦場に不釣り合いなまでの、酷く優しい声音が降りた。
「……いえ、別に」
辛いとは言えなかった。
非情だが、実のところそれが本心で。
身内と対立することに、慣れ過ぎたのかもしれない。