流華の楔
昨日、芹沢を捜しに町へ出た和早と藤堂が目にしたのは、呉服屋の女将と言い争う芹沢一派。
言い争いというより、金品強奪の手前のような雰囲気だった。
『この俺がこれだけ譲歩してやってると言うのに!』
『ど、どうかご容赦を…!』
鉄扇を振りかざす芹沢に、腰が引けて動けずにいる女将。
この後の展開は目に見えている。
『くそっ…間に合うか…』
『あ、おい新崎!』
芹沢の強さを知っているが故に一歩出遅れた藤堂を残して駆け出し、寸でのところで彼の者の鉄扇を腕一本で受け止めた。
『…っ、』
……痛くない、とは言えない。
思わず呻きを漏らしてしまうほどには衝撃があった。
騒然とする野次馬とは対照的に、静まり返る店内。
『……、テメェは…』
『まさか本当に、女に手を挙げるとは……ね』
さすがに呆れるというか。
鉄扇をまともに受けた腕の痛みさえどうでもよくなる程お笑いぐさだ。
『大丈夫か新崎!』
『……大丈夫です。多分、折れてはいないかと』
それよりも芹沢だ。
まだ気が立っているようなら、剣を抜く事態になりかねない。
『ふん。助かったな、女将。今回はコイツに免じて咎めはしない』
『あ、ありがとうございます…』
女将は深く頭を下げた。
謝るべきは、こちら側なのに…。