流華の楔
「私を捕えねば、お前が謀反人扱いされるぞ」
そう言った和早の目は、酷く嘲笑的で。
佐上は思わず目を背けた。
たったひとりの想い人に、こんな目をさせているのは他でもない自分。
皮肉なものだ、と。
「私…いや、俺は…」
「新崎様」
佐上の言葉を遮ったのは最奥に座っていた長州藩の家老、福地。
彼はおもむろに立ち上がり、和早に数歩近づいた。
見物人達は「次は何が始まるのか」再びざわついた。
「今ここではっきりとさせましょうぞ」
「…ああ」
厳格な福地と、冷たい和早の視線が交錯する。
「長州藩主の弟君で在らせられるあなた様が、何故かような真似をなさっているのですかな」
その瞬間、空気が波を打つ。
それもそのはず。
和早の真の身分を知っていたのは長州や薩摩をはじめとす重役と龍馬のみ。
何も知らず和早を「ただの救世主」だと思っていた聴衆は、思わぬ衝撃を受けたのだ。