流華の楔




「私は藩を捨てた身。咎めを受ける筋合いなどないが、それでも気に食わないというならば殺せ」

「なっ…」
「え、話が違、」


和早は眉根を寄せる福地を睨み据え、何かを言いかけた佐上と龍馬を制した。



「謀反の意があると解釈してもよろしいので?」

「…ああ」


静かな肯定。
それを聞くや否や福地は刀を抜く。


「あなた様が殺せと仰るならばそういたしましょう。…何か、言い遺す事は?」

「ある。ひとつだけな」


迫る切っ先を目前に柔和な笑みを漏らす和早。
何故そのように、と佐上は狼狽える。



和早は一瞬だけ聴衆に目を遣り、


「“私の心は常に新選組と共にある”と、副長にお伝えください」


最期の笑みを浮かべた。


「……坂本、頼む」


憂いの満ちたその背中を二発の弾丸が撃ち抜いたのは、それから間もなくの事だった。



< 359 / 439 >

この作品をシェア

pagetop