流華の楔
「私は藩を捨てた身。咎めを受ける筋合いなどないが、それでも気に食わないというならば殺せ」
「なっ…」
「え、話が違、」
和早は眉根を寄せる福地を睨み据え、何かを言いかけた佐上と龍馬を制した。
「謀反の意があると解釈してもよろしいので?」
「…ああ」
静かな肯定。
それを聞くや否や福地は刀を抜く。
「あなた様が殺せと仰るならばそういたしましょう。…何か、言い遺す事は?」
「ある。ひとつだけな」
迫る切っ先を目前に柔和な笑みを漏らす和早。
何故そのように、と佐上は狼狽える。
和早は一瞬だけ聴衆に目を遣り、
「“私の心は常に新選組と共にある”と、副長にお伝えください」
最期の笑みを浮かべた。
「……坂本、頼む」
憂いの満ちたその背中を二発の弾丸が撃ち抜いたのは、それから間もなくの事だった。