流華の楔



その後、土方は誰もいない部屋で煌々と輝く月を見上げた。


「……」


近藤が武士として死ぬことができたと聞いた時は素直に安堵した。

なのに何故、和早まで死んでしまったのか。


敵でもいい。

長州藩主の妹だろうが何だろうが、傍にいてくれさえすれば良いのに。


何で、手の届かない場所に逝ってしまったのだろう。



「…忘れられるはずがない」


一時は忘れようと思った。

けれど忘れようと思うほど想いは募るばかりで、姿を消した時も気が気じゃなかった。




「何で死んじまったんだよ、馬鹿野郎…!」



本当に、もう二度と。

逢えなくなってしまうなど。



何も伝えていないのに。

失ってから後悔しても遅いとわかっていたはずなのに。



情けないくらい、後悔に駆られていた。



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