流華の楔




榎本の隣で優しく微笑む、華麗なドレスを纏った美しい女。

既にこの世にはいない想い人に重なる面影。


あれは、まさか。


「和早…?」


目を疑う。

そんな訳ないと思うのに、そうであってほしいと願っている。


高鳴る動悸。
勝手に脚が進んでいく。


そしてついに、手を伸ばせば届く距離。


「あの…!」


榎本の手前、下手な振る舞いはできない。

それでも。
間近でその顔を見るくらいは許されるだろう。



「ええと、武揚様に何か御用が? あ、でも今は他の方の…」

「…っ」

「あの、どこか痛むのですか?」

「…、いや」


違う、全然。

態度、仕草、言葉遣い。
どれも和早のそれには当てはまらない。


似ているのは、姿形だけだ。


…他人の空似だったか。



< 366 / 439 >

この作品をシェア

pagetop