流華の楔
榎本の隣で優しく微笑む、華麗なドレスを纏った美しい女。
既にこの世にはいない想い人に重なる面影。
あれは、まさか。
「和早…?」
目を疑う。
そんな訳ないと思うのに、そうであってほしいと願っている。
高鳴る動悸。
勝手に脚が進んでいく。
そしてついに、手を伸ばせば届く距離。
「あの…!」
榎本の手前、下手な振る舞いはできない。
それでも。
間近でその顔を見るくらいは許されるだろう。
「ええと、武揚様に何か御用が? あ、でも今は他の方の…」
「…っ」
「あの、どこか痛むのですか?」
「…、いや」
違う、全然。
態度、仕草、言葉遣い。
どれも和早のそれには当てはまらない。
似ているのは、姿形だけだ。
…他人の空似だったか。