流華の楔
「おお、土方君じゃないか。気付いてやれずすまないね」
榎本が人のいい笑みを浮かべてこちらを向けば、和早にうり二つの女はその後ろに下った。
「あ、いえ。お気になさらず」
「……どう思う?」
「は?」
問いの意味が解らず一瞬呆然とする。
その様子がよほど可笑しかったのか、榎本は軽快に笑った。
「この女が、だよ。葵というんだが…なかなか良い女だろう?」
「まぁ…そうですね」
葵、か。
やはり別人だったらしい。
天の悪戯にしては少々残酷だ。
「武揚様、わたくし異国の方と話をして参りますので少し外しますね」
「ん? ああ、わかった。行って来い」
「(んだと…?)」
この女、異国人と話せるのか。
さすがお嬢様育ちは違う。
土方は丁寧にお辞儀をして去っていく葵を視線だけで追った。
「……」
歩き方も完璧だ。
欠点という欠点は見当たらない。
それが、物足りなかった。
「(あいつも完璧だったが…面白味はあったな)」
だからなのか。
その手を握って引き留めたい気持ちにはならなかった。