流華の楔
暫く話し込んだ後、榎本は異国の客人と話があると言って広間を出て行った。
「そんじゃ、戻るか…」
別館の自室を目指してひたすら歩く。
葵に会いたくない一心で。
もう一度あの顔に会ってしまったら、和早の面影を追い求めてしまいそうになる。
…あいつの記憶を、消されたくない。
「くそっ…何で…!」
客の視線が刺さるのもお構いなし。
つのる苛立ちを抑えることなど、不可能だった。
「和早と同じ顔で大鳥の婚約者だァ?」
…ふざけんな。
どれだけ己を苦しめれば気が済むんだ、神さんという奴は。