流華の楔
葵はひとり、五稜郭の開けた場所に足を運んだ。
「……」
手の中の、思い出と呼ぶには十分すぎるそれを見つめる。
何故だろう。
今の「葵」はこんなものを持っていてはならないのに、手放せない。
「…っ」
突然、痛みが走った。
肩と腰の上あたり……坂本が撃った場所だ。
葵は地に屈みこんでそれを耐えた。
「あっ、大丈夫か!?」
最も逢いたくない男の声。
足音が迫る。
「おい、どうしたんだ」
足元に影が落ち、頭上から声が降りた。
「大丈夫です。古傷が痛んだだけで…すぐ治りますから」
「治りますから、って…そうは見えねぇが。本当に古傷か?」
さすが土方、鋭い。
嘘を見抜かれるのも時間の問題になってきそうだ。