流華の楔



葵はひとり、五稜郭の開けた場所に足を運んだ。


「……」


手の中の、思い出と呼ぶには十分すぎるそれを見つめる。


何故だろう。

今の「葵」はこんなものを持っていてはならないのに、手放せない。



「…っ」


突然、痛みが走った。

肩と腰の上あたり……坂本が撃った場所だ。

葵は地に屈みこんでそれを耐えた。


「あっ、大丈夫か!?」


最も逢いたくない男の声。

足音が迫る。


「おい、どうしたんだ」


足元に影が落ち、頭上から声が降りた。



「大丈夫です。古傷が痛んだだけで…すぐ治りますから」

「治りますから、って…そうは見えねぇが。本当に古傷か?」


さすが土方、鋭い。

嘘を見抜かれるのも時間の問題になってきそうだ。





< 371 / 439 >

この作品をシェア

pagetop