流華の楔



土方は葵の前に歩を進め、見おろすようにその場に立った。


「あいつのことが好きだったから」

「…え、」

「ずっとあいつだけを想ってたから、無意識にアンタと重ねてたのかもしれねぇ」

「……そう、ですか」


どこか居たたまれず俯く。
するとその頬に、手が添えられた。


「…っ」


上向かせられる。
何より土方の顔が近い。

これは、まずいんじゃないか。


近付く距離に危機感を覚え後退しようとするが、すぐさま寝台に押し倒される。

…逆効果だったらしい。


圧し掛かる男の重み。
押さえつけられた両の手首の感触。

切なげな瞳。


これを拒絶したらきっと、土方は壊れてしまう。



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