流華の楔
土方が出ていった後も、沖田がその場を離れようとはしなかった。
逆に、興味深そうに和早を見つめ……いや、睨んでいる。
「……沖田さんは戻らなくて良いんですか? 私を試す機会は今のところなくなったと思うんですけど…」
「ですよね。まあそうなんですけど。…この際はっきりさせておこうと思いまして」
「ああ…」
“はっきりさせる”内容については、だいたい予想がついていた。
土方が閉めたはずの襖から漏れる日光が、沖田の意味深な笑顔を照らす。
「…あなたは、僕に“認められたい”ですか?」
笑顔が消え、真顔になった沖田が和早を見据える。
探り合う視線が交錯すれば、和早の方が先に表情を崩した。
「ええ、もちろん」
「…でしょうね。ゆくゆくは僕の立場は重要なものになっていくはずです。そんな僕に認められないのは、あなたとしてもやりずらい、と」
自信がなければ口に出せない台詞がつらつらと並べられる。さすが、その辺の二十二歳の青年とは違うな、と頷く。
「やりずらい……とは違うかもしれません。個人的に理解し合えたらいいな、とは思いますが」
「…理解し合う? この僕と?」
きょとんとした沖田は小刻みに肩を震わせたが、しばらくして堰を切ったように笑い出した。