流華の楔
…その後。
陣形や戦術について少しだけ議論したせいで、時刻は深夜に差し掛かった。
この時間帯まで出歩く幹部は少ない。
話が途切れた段階で、和早は疲れを感じさせない素振りで立ち上がった。
「では、私はまだやり残したことがあるので、これで」
「ああ……いや、待て」
「他に何か?」
ドアノブに手をかけたまま、向き直る。
「…次の戦の件だが、俺も出る」
「一つの戦場に二人の指揮官ですか? 有り得ませんよ」
有り得ない、訳でもないが。
それでは“己が出陣する意味”がなくなる。
「なら、お前の補佐でいい」
「補佐には別の者を就けます。土方さんがわざわざ出る幕ではありませんよ」
緩く微笑んで一礼したその直後。
土方に背を向けた和早の顔から、表情が消えた。