流華の楔
五月十日。
「海軍第一部隊は予定通り弁天沖で戦艦を迎え撃て。戦艦自体は先の戦で座礁しているが、砲弾自体は問題なく使用できることが確認できた。その他の部隊は函館山裏へまわれ。大半の敵は必ずそこから来るはずだ。陸軍は…」
葵の名を捨て、男の成りに戻った和早が、次々と部下に指示を出す。
その場の誰もが恭敬の眼差しでそれを見ていた。
「か、かっけー…」
「さすがは榎本総裁の推薦だなぁ…」
「しかも役者並みに美形っつー…」
思わず感嘆してしまう有能な指揮官は、陸海両軍の知識を持ってして敵の裏の裏をかくような戦略をものの数刻ではじき出していく。
「ったく、相も変わらず惚れ惚れするぜ……これじゃあ俺の立つ瀬がねぇな」
指示の間に土方が口をはさむ。
言葉とは裏腹にどこか楽しげで、和早もつられてふっと笑った。