流華の楔




「土方さん。今晩、伺っても?」



視線を図面に落としたまま小声で尋ねる和早の横顔は真剣で、土方は言葉に詰まりながら口を開く。



「あ、ああ……別に構わないが。まさか選別を贈るため、とか言うわけじゃないだろうな」

「なるほど。いいですねそれ」

「おいおい、洒落になんねーぞ…」



土方は苦笑いを浮かべ、視線を逸らす。

…見ている事が出来なかった。


名誉のため、己の意地のため、女の身で戦地へ赴く彼女を。

明日には消えて無くなるかもしれない命を。



「(…おかしい)」


土方は内心そう思う。


何故こうにも落ち着かないのだ。

彼女くらい上の者になれば、戦地で命を落とすことは滅多にないというのに。



憂いを帯びた彼女の横顔がそうさせているのか。

はたまた思い過ごしなのか。



どっちにしろ、この掌から全てがすり抜けていくような「何か」からは逃れられないようだが。




< 397 / 439 >

この作品をシェア

pagetop