流華の楔
「土方さん。今晩、伺っても?」
視線を図面に落としたまま小声で尋ねる和早の横顔は真剣で、土方は言葉に詰まりながら口を開く。
「あ、ああ……別に構わないが。まさか選別を贈るため、とか言うわけじゃないだろうな」
「なるほど。いいですねそれ」
「おいおい、洒落になんねーぞ…」
土方は苦笑いを浮かべ、視線を逸らす。
…見ている事が出来なかった。
名誉のため、己の意地のため、女の身で戦地へ赴く彼女を。
明日には消えて無くなるかもしれない命を。
「(…おかしい)」
土方は内心そう思う。
何故こうにも落ち着かないのだ。
彼女くらい上の者になれば、戦地で命を落とすことは滅多にないというのに。
憂いを帯びた彼女の横顔がそうさせているのか。
はたまた思い過ごしなのか。
どっちにしろ、この掌から全てがすり抜けていくような「何か」からは逃れられないようだが。