流華の楔
土方単独なら戻れるかもしれないが、負傷した己は訳が違う。
「お願いします。土方さんだけでも、」
「嫌だね。俺だけ逃げろってか? はっ、馬鹿言うもんじゃねぇぜ」
土方はにやりと笑った。
「生憎と俺たち新選組は“逃げ”を知らねぇのさ。それに俺は、お前となら地獄だって楽園さ。生き延びれたら儲けモンってくらいにしか考えてねぇ」
「………」
「いや、本当は是が非でもお前と生きたいんだがな? ほら、何つうか…」
「ふっ」
思わず吹き出す。
最初の台詞だけだったら格好良かったのに。
案の定、土方は機嫌を損ねた。
「…んだよ。これでも俺は真面目なんだぜ?」
「ふふっ、わかってますって。地獄も楽園か…なるほどね」
なかなか面白い。
そう思いながら、和早は比較的無傷な左腕を確かめるように動かす。
…これなら、少しはいけるか。