流華の楔
対の手は首筋を伝い、肩を過ぎ、和早の腕に沿ってその手首を掴む。
いつの間にか壁際まで押されていて、彼女の背は軽い接触音を立てて壁にぶつかった。
「やっぱり、あなたの顔…」
「…顔?」
斎藤の予期せぬ行動にも、和早は努めて冷静に振る舞う。
二人の距離は無に近いが、互いの唇はすれすれのところで重ならない。
「……似てるんです、俺の初恋のひとに」
感傷を纏い目を伏せる斎藤は、こちらまで苦しくなるほど切なく、綺麗で。
目を奪われているうちに、和早は斎藤に強く抱きすくめられた。