流華の楔
四方八方を向く有真と対照的に、隣の男は終始前を見ている。
遠目から見た時は思い出せなかったが、あの顔には見覚えがあった。
桂小五郎。
二、三度会ったことがあるようなないような。
「……おや? ついて来ていらっしゃったんですか」
「あれ、ばれました?」
といいつつ本当はわざと見つかるようにしたのだけど。すぐさま存在を察知するとは、さすが桂。
「え? 和早、ついて来てたのかい?」
「先程聞きそびれたことがありまして…」
「聞きそびれたこと?」
「はい。兄上…、遥々京においでになった理由をお聞かせ願いたいのです」
近頃、長州の浪人の動きがやけに活発化している。
無関係と思いたいが、新崎家嫡男の存在は大きい。
何らかの目的があってこちらに来ているならば、探っておくのが最良だろう。