流華の楔



四方八方を向く有真と対照的に、隣の男は終始前を見ている。

遠目から見た時は思い出せなかったが、あの顔には見覚えがあった。



桂小五郎。

二、三度会ったことがあるようなないような。




「……おや? ついて来ていらっしゃったんですか」


「あれ、ばれました?」


といいつつ本当はわざと見つかるようにしたのだけど。すぐさま存在を察知するとは、さすが桂。



「え? 和早、ついて来てたのかい?」


「先程聞きそびれたことがありまして…」


「聞きそびれたこと?」



「はい。兄上…、遥々京においでになった理由をお聞かせ願いたいのです」



近頃、長州の浪人の動きがやけに活発化している。

無関係と思いたいが、新崎家嫡男の存在は大きい。



何らかの目的があってこちらに来ているならば、探っておくのが最良だろう。
< 84 / 439 >

この作品をシェア

pagetop