流華の楔
「和早殿…あなたも長州の生まれだというのなら、我らを疑うことはやめてもらいたい」
「……」
ではいったい何をしに来た?
兄を巻き込み、何をしようとしている?
怪しまないための証拠など、どこにあるというのだ。
空気に耐え兼ねたのか、有真が動いた。
「和早、ごめん。ちょっと急いでるからもう行くよ」
「和早殿、また会おう」
桂も和早に一礼して踵を返す。
「あ、兄上…!」
また逃げられた。
悪戯好きな兄を追いかけるのは子供の頃よりの習慣であるが、今回は事情が全く違う。
「ただの悪戯で済むならいいんだけどな…」
既に見えなくなった二人の背を、和早は見つめ続けた。