流華の楔
そんな顔もするんだな、と思った。
常に人の事を考えて、気丈に振る舞って、冷静な物言いができる女。
俺は、コイツのそういう面しか見たことがなかった。
「……っ」
気づいた時には、立ち去る寸前の和早の腕を引き、自らの下に組み敷いていた。
瞳目し、見上げてくる和早の手首を掴み、畳に押さえ付ける。
「……」
「お前が入隊した時のこと、覚えてるか?」
抵抗する気のない和早に反比例するように、拘束する力が強まる。
「…ええ、もちろん」
「あの時、コイツは何か背負ってるモンがあるんじゃねぇかと思った」
心の強さ。
女とは思えない気迫。
自分の命を惜しまない剣。
「……言え。何が目的でここにいる?」
「……」
「…言えよ!」
叫んで、後悔した。
こんな顔をする和早に、優しい言葉さえかけられない。
駄目だな、と思った。