僕とあの子の放課後勝負
しょうぶ 二回戦
兄は夕飯を食べると、さっさと帰っていった。結局、何しに来たんだろう。
自室に篭って、今日買った画材を広げて、雨月さんとのやり取りを思い出す。…あぁ歯痒いな、とは思っても、やっぱり行動に移せない自分が憎たらしい。
不意に、一度だけノックの音がした。
「まぁ、入れよ」
「…お兄ちゃん」
やっぱり、梨央だった。
一瞬、くしゃっと歪んで、また元に戻る。隠しているけど、僕は見た。
「…先生にね、コンクール、出なくていいって言われた」
「…あぁ、あいつか。梨央、気にするな」
「え?」
僕らの学校の音楽教師は、意地の悪い男性だ。楽器が吹けて礼儀正しくしていれば、もう奴のお気に入りだ。逆に言えば、梨央みたいな自信家が嫌いなんだ。えこ贔屓、ってやつかな。
「もう少し練習すれば、お前ならきっと見返してやれる。だから、気にするな。練習に励めばあいつも認める」
「…あり、がとう」
我が妹が珍しく笑顔で、礼を言った。明日は、雷雨かな。