彼方ニ、跳ネル。
縺れそうな足で急いで階段を駆け降り、リビングに入る。
台所にある勝手口から出た方が近いだろう。
「わん。」
「あ゛!?ってピョン吉なんで此処に!?」
ピョン吉は我が家の飼い犬。
茶色い中型犬で、拾い犬なのでわからないけど何かの雑種。
いや、それよりこいつが此処にいるのはおかしい。
だってコイツは室内犬じゃない。
いつもなら庭でリード繋いで犬小屋にいる筈なのに。
「ピョン吉!ちょ、早くこっち来なさい!竜巻で死ぬよ!?」
「わん。」
こいつ…!こんなときに限ってお利口さんにおすわりしやがって…!!
仕方なく私はピョン吉を抱えて外に出ようと試みる。
でも中型犬だから運動不足の私には重い…!
バキッ
「えっ」
突然体に不思議な感覚。
昔一度だけ乗った事のある、飛行機の離陸の感覚に似ている。
って!家が!家が揺れる!地震!?
あまりの揺れと、何かの圧力に立っていられなくなった。
「紀奈子ォォ!何て事だ!竜巻が紀奈子ごと家を持ち上げて遠ざかってゆくぅぅ!!」
父の説明口調がだんだんと遠ざかるように聞こえる。
…え、遠ざかっ…!?
這いつくばる様にして近くの窓のカーテンを開ける。
そして私は、呆然とせざるを得なかった。
地面が遠い。どんどん遠ざかって、轟音が全てを書き消している。
家が、竜巻に浚われている訳だ。