ふたりごと
アパートに帰り、真っ暗な部屋に電気をつけた。
「おかえり」
は、聞こえてこない。
玄関でパンプスを脱いで、部屋の中へ入るとバッグを置いてベッドに寝転がった。
眠いわけではない。
でも、眠りたい。
何も思い出せないくらいに。
何も考えられないくらいに。
深い深い眠りにつきたい。
服も着替えずに目を閉じて、ただただ眠りに集中する。
眠りたい。
忘れたい。
何も考えたくない。
「遥」
と、優しい声で私の名前を呼んでくれたあの人は、もういないのに。
いないのに、どうして?