ふたりごと


松崎くんはカウンターでドリンクをオーダーし、淹れたてのコーヒーが入ったカップを持って私のいるテーブルまでやって来た。


「お待たせしました」


彼は頬がやや紅潮しており、うっすら汗までかいていた。


相当急いで来たのだろう。
いつもの冷静さがちょっとだけ薄れていて、なんだか年相応に見えた。


「全然待ってないよ。安心して」


クスクス笑いがこらえきれなくて、口を手で覆いながら声をかけた私を見ながら、彼は恥ずかしそうに額の汗を拭った。


「みっともない姿見せてしまいましたね」


「そんなことないよ」



フォローしたくてそう言ったけれど、私のいる言葉はどうやら松崎くんには届いていないらしく、窓の外に視線を移して反省しているような表情を浮かべていた。


ふと、私は彼の足元を見やる。


中くらいの紙袋が置いてあって、彼が持ってきたものだった。


その紙袋は無防備に大きく口が開いており、中身がよく見えた。


コーヒーの粉が入ったパックと、リボンのかかったクッキーかあるいはマドレーヌか、何か焼き菓子のようなものが入っていた。


明らかに誰かにプレゼントしてもらったような印象を受けるもので、私は自分が松崎くんに渡そうと買ったコーヒー豆が入った袋を、さりげなくバッグの陰に隠した。


それはもはや、自分の意思とは無関係に、無意識にしてしまった不思議な行為だった。







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