ふたりごと
「登山って楽しい?」
「もしよければ、今度一緒に行きませんか」
私の質問には触れるような回答はしていないのだけれど、また松崎くんの自然でさりげない誘いに、思わずうなずいてしまった。
「でもまったくの未経験者だよ」
運動神経も良いか悪いかと聞かれると、どちらかと言えば悪い方だし、体力の必要な登山はとても不安だ。
「初心者でも簡単に登れる山もありますから」
何も問題はありません、とでも聞こえてきそうな顔で彼がそう答えた時、ようやく先程頼んだビールやおつまみが店員さんの手によって運ばれてきた。
天ぷらは揚げ立てを持ってくるので、まだ時間がかかるとのこと。
なので、とりあえず私たちは乾杯することにした。
「かんぱーい」
二人でグラスを合わせて、ビールを一口。
「美味しいです」
まるでコーヒーを飲んだあとに言うような感想を述べる松崎くんは、それが例えお酒であっても特に変わらないようだ。