ふたりごと
けっこうお酒は飲んだし、さっきまで気分も少し高揚していたけれど、私の頭の中は、やけにまっさらというか、とてもハッキリと意識があった。
正直、この時の私は嬉しいような切ないような、でも素直になれないような、そんな複雑な気持ちで、どうしようもないくらいグラグラする思いを整理できないでいた。
やがて、私のアパートまでたどり着いた時、私たちは歩みを止めた。
ぼんやりとした薄明かりの街灯の下で、松崎くんは私をじっと見つめてきた。
途端に私の心臓が妙にドキドキしてしまった。
何を言われるのだろう。
「あの…迷惑かもしれないと思うんですけど…」
彼が一瞬躊躇ったように下を向く。
どうしよう。
なんて答えよう。
そんなことを私が考えていると、彼は思い切ったように手に持っていた紙袋を私の方へ差し出してきた。
「えっ???」
予想外の出来事に戸惑う私には気づかないらしく、松崎くんは言葉を続けた。
「自分の趣味を押しつけるようで申し訳ないんですが、西山さんが好きそうな味のコーヒー選んで買ってきました。よかったら家で飲んでみてもらえませんか」
「あ…コーヒー…」
紙袋を受け取って中身を見ると、粉のコーヒーが真空になっているものと、焼き菓子の詰め合わせが入っていた。
そうか…
これは松崎くんが誰かにもらったんじゃなくて、私のために買ってきてくれたものだったのか…。
勝手に勘違いしていた自分が恥ずかしくなった。