ふたりごと


電話を切ったあと、思わず深い溜め息が漏れた。


以前よりは立ち直れてきているけれど、やはりいざ和仁と会う機会があると思うと怖い。


ふと引き出しの奥深くにしまい込んだ、和仁からの手紙があったことを思い出した。


前は手紙を最後まで読めなくて、彼の気持ちを知るのが怖くて、逃げるために泣いて、避けるように生きていた。


あの手紙…今なら、読めるだろうか。
泣かないで読めるだろうか。
逃げないで読めるだろうか…。


躊躇しているうちに、携帯にメールが届いた。
松崎くんからのメールだった。


受信ボックスを開いてみると、いつものように短い文章が綴られていた。


『今日、もし時間があれば会いませんか?』


そういえば次に会うときは登山しようって約束したけれど、まだ何も準備していなかった。


私はすぐに返信メールを送った。


『登山行く?まだ準備できないから、今度でもいい?』


すると今度は電話が来た。
慌てて電話に出る。


「もしもし、松崎くんごめんね」


『いえ、今日は登山のつもりで誘ったんじゃないんです』


意外な彼の返答に、私はちょっと拍子抜けしつつ首をかしげた。


「そうだったの?」


『西山さん、きっと登山初めてだろうから、今日はアウトドアショップでも行って、雰囲気だけでも感じてもらえたらと思って。だから登山はこの次。どうでしょう?』


さすがだな、と思わず感心してしまった。


松崎くんは私の不安や思っていることはなんとなくお見通しというか、感じ取っているに違いない。


「ぜひお願いします」


私はそう言いながら、自然と笑顔がこぼれてしまった。













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