ふたりごと
「登山に必要な物なんですけど、間に合いそうな物は俺のをお貸ししますね。西山さんはとりあえずちゃんとした登山用の靴を買えば大丈夫だと思います」
私の考えをよそに、松崎くんは私が登山に初挑戦するために何が必要か考えてくれていたようで、意気揚々と話し始めた。
「手持ちの服で厚手のパーカーとかあればそういうので十分ですし、ストレッチの効いた柔らかいズボンとかあれば動きやすいので歩きやすいですよ」
「うん、たぶん家にあると思う!」
私がそう言うと、彼はちょっと申し訳なさそうな表情へと変化した。
「あの...嫌なときは言ってくださいね?俺の趣味に付き合わせてしまって、なんだか申し訳なくなってきたんですけど...」
なんだ、そんなことか。
気にしなくていいのに。
クスッと笑った私を見て、松崎くんが首をかしげる。
「案外、楽しみにしてるんだよ。引きこもりがちな私を、知らない世界に連れてってくれるからありがたいです」
という私の言葉を聞いて、彼はホッとしたように微笑んだ。
「頂上から見る景色は、息を飲むほどに綺麗なんです。西山さんにぜひ見てもらいたいです」
「そうなんだ。カメラ持っていこうかな」
私たちは目を合わせてニッコリ笑い合った。