ふたりごと
ご飯を食べ終えた私たちは、早速松崎くんがいつも行っているというアウトドア用品店へ向かった。
店内は広々としていて、ウェアや靴やリュックなどありとあらゆるものが各種並んでおり、奥の方にはキャンピング用品なんかも沢山置いてあった。
私のこれまでの人生においてアウトドアという言葉が無かったため、すべてが新鮮ですべてが楽しく思えた。
「こんなに沢山あるの?迷っちゃうね」
キョロキョロと店内を見回す私を、松崎くんは慣れた様子で「こっちです」と案内する。
これもまた、ベテランの店員さんのようだった。
「さっき言ってた靴なんですけど、なるべく滑りにくさを重視したものがいいと思うんです。雨上がりだったり、湿気が多かったりすると岩場とか滑りやすいので。あとは、靴ずれを起こさないように柔らかめの靴を選びましょう」
「プロみたいだね」
「そんなことないです。俺なんかまだまだですよ」
そう言いながらも、彼は靴のコーナーに着くやいなや手早く靴底をチェックし、柔らかさを確認して候補の靴をいくつかピックアップした。
とても生き生きしていた。
本当に登山が好きなのだろうなと思った。
「西山さん、足のサイズは何センチですか?」
「23.0センチかな。厚手の靴下はくなら23.5センチの方がいい?」
「じゃあ両方はいてみましょう。色はどれがいいですか?」
松崎くんが差し出した靴の中から、少し明るめのグレーの靴を選んだ私はすぐに試着してみる。
「23.0センチだとピッタリすぎるかなぁ。今ストッキングだからよく分からないけど」
靴を試着することを考えずに、いつも通りにパンプスをはいてきてしまったため、登山靴のフィット感がいまいち掴めない。
「ストッキングでピッタリなら、23.5センチの方が良さそうですね」
松崎くんのテキパキ動く姿を眺めながら、私はどうしても堪え切れずに笑ってしまった。
「どうしたんですか?」
びっくりしている彼に、私は思わず
「松崎くん、ここで働いたら店長さんになれそう」
と言ってしまった。
そこで彼も吹き出す。
「俺が真剣にやってるのにそんなこと考えてたんですか。まぁ、店長になれる自信はありますけどね」
彼の返答に私はさらに笑う。
笑いながら、あれ?と思う。
私、こんなに笑うっけ?
心底楽しいと思っている自分がいて、それに戸惑う自分もいた。