ふたりごと


お弁当のおかずの下ごしらえをしながら、私は自分で何をしているのだろうと思った。


少し前の私なら和仁の顔が思い浮かんで、あのお弁当箱は他の誰にも使わせたくないと思っていたに違いない。


でも今はそうじゃなかった。


思い出の詰まったお弁当箱を松崎くんに使わせるのは失礼だと思った。


野菜を切る手がゆっくりと止まる。


……私、もしかして松崎くんのことを好きになりかけてる?


こうやってお弁当を作っているのだって、さっきは感謝の意味を込めてと考えていたけれど、そうじゃない。


彼の喜ぶ顔が見たくて作っているのだ。


その事に気がついた。


そして、怖くなった。


松崎くんの心が、いつか私じゃなくて違う人に移ってしまうんじゃないかという大きな不安。


和仁と同じように、私の元を去ってしまうんじゃないのかな。


とても怖くなった。





私は和仁に振られた事のショックから立ち直れてきている。


それは紛れもなく松崎くんのおかげだ。


そんな彼は私に好意を寄せてくれている。


そして私も彼に惹かれている。


なのにどうして?


こんなに不安で悲しくなるの?


過去を乗り越えられない自分がいるから?


違う。そうじゃなかったんだ。





すべては自分の心の弱さが原因なのだと分かった。






そしてこの弱さと、どのようにして向き合えば克服できるのか……
今の私には答えは見つけられなかった。










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