ふたりごと
翌日。
朝早く起きて作ったおかずと、梅干しと塩昆布のおにぎりをリュックに入れ、お茶も2本詰め込んだ。
松崎くんに言われた通りの服装に着替え、いつも下ろしている髪の毛も今日はしっかりアップにした。
つばの広い帽子も持ったし、これで大丈夫だろうか。
いざ登山する服装になると、体力に自信が全くないことに不安を感じた。
せめて松崎くんの足を引っ張らないように頑張ろうと決意した。
待ち合わせの駅に着くと、松崎くんが既に待っていた。
「おはよう。遅くなってごめんね」
「おはようございます。俺が早く着いただけですから、遅れてないですよ」
朝だというのに、松崎くんは変わらず生真面目な返答を返してきた。
いつまでも敬語で疲れないのかな。
目的地へ向かう電車の中で松崎くんが私の服装に目をやり、とても意外そうな表情を浮かべた。
「いつもと全然違いますね、雰囲気」
「え?そうかなぁ」
「すごく登山が得意そうですね」
「……バカにしてない?」
私がジロッと横目で睨みつけると、彼は驚いたように
「西山さんもそういう顔するんですね」
と感心していた。
注目するところが違うと思うんだけど。
「荷物、重そうですけど大丈夫ですか?俺、少し持ちますよ」
パンパンに詰め込まれた私のリュックに気づいたようで、松崎くんは心配そうに顔をのぞき込んできた。
「あぁっ、いいのいいの、大丈夫。余計な物ばっかり持ってきちゃっただけ」
「そうですか……重い時は遠慮なく言ってくださいね」
余計な物っていうか、お弁当箱がリュックの大半を占めているのだけれど。
変な気を使われても困るし、松崎くんが仮にお昼ご飯を持ってきていたら出さないつもりだったので、お弁当を作ってきたことはまだ言わないつもりだった。