ふたりごと
「しょーじー!」
え?と私と松崎くんは顔を見合わせた。
「おーい、しょーじー!」
また松崎くんを呼ぶ声。
振り返ると、数人の男女が私たちの方へやってくるところだった。
途端に松崎くんの顔が驚いた表情に変わる。
「トシ!」
手をブンブン振って笑顔で一番先に近づいて来た男の子と、松崎くんがハイタッチした。
「昭治~!偶然だな!なんだ、今日ここ登るんだったのか」
トシと呼ばれた短髪で長身の彼が、人懐っこい笑顔で松崎くんの肩を叩く。
「びっくりした~。まさかトシたちもここ登ってるなんて知らなかった」
「だってお前、誘ったら用事あるって断ったじゃん」
「ここ登る予定だったから」
二人の会話から察するに……登山仲間?
サークルの同級生?
そんな私たちの元へ続々と残りのメンバーも合流してくる。
「昭治、お前に彼女いたの知らなかったよ。しかもめっちゃ美人」
今度は違う男の子が松崎くんに話しかける。
彼が否定する隙間もなく、他の友達も一斉に松崎くんを冷やかしていた。
私ってこういう時はどうすればいいのだろう。
困って固まっていると、トシと呼ばれていた男の子が私の顔をまじまじと見つめてきた。
「初めまして!昭治と同じ山岳部の者です!」
「こ、こんにちは……」
私がそう返すと、トシという人は「ヤバい!めっちゃ美人ー!」とさっきと全く同じことを言って他のメンバーに笑顔を向けた。
そして他のメンバーも、なぜか「イエーイ!」みたいなノリで楽しげに盛り上がっている。
学生ってなんでも楽しいもんね……。
数年前を思い出して思わず遠い目になる私。
そんな私を少し距離をとって見ている視線を感じた。