ふたりごと
視線の主を探すと、山岳部メンバーの中に一人だけ女の子がいることに気づく。
ボブヘアのキリッとした瞳が印象的な女の子。
その子だけは、私を冷静な目で見ていた。
この視線の意味ってなんなんだろう。
考えているうちに松崎くんが困ったようにいつもより声を大きめにして
「トシ、困らせてるの分かってるだろ。俺たちにかまわず行っていいからな」
と、両手で彼らの背中を無理やり押した。
トシと呼ばれた彼は、底なしの明るい笑顔で
「分かりましたよ~!邪魔しませーん!昭治たちも気をつけてな!」
と松崎くんに言い、登山道に戻っていった。
騒がしい団体が去っていってホッとしたのもつかの間、さっきの女の子だけがこの場に残り松崎くんに声をかけていた。
「昭治、あたし聞いてないんだけど」
「何が」
「彼女いるってこと」
私はこの短い会話だけで彼女が松崎くんに想いを寄せていることを悟った。
どうしよう。
この場にいていいのかな。
でも急にいなくなってもおかしいし、どうしよう。
私はひたすらうつむいて、手に持っているお茶のラベルを見つめた。
そうだよね、松崎くんだって誰かに好かれているんだ。
分かってはいたけれど、私じゃない誰かに心が移ることも有り得るんだ。
「その話はまた今度」
松崎くんがそう言っているのが聞こえた直後、彼女は少し興奮したように
「今度じゃなく今してよ!この人の前でちゃんと」
と声をうわずらせた。
彼女が言う「この人」って私のこと?
顔を上げると、彼女と目が合う。
気まずい空気が流れた。
そもそも、私は松崎くんの彼女でもなければ友達でもない。
どんな関係なんだっけ。
すると松崎くんは、私の方は一切見ずに彼女に淡々と告げた。